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福岡高等裁判所 昭和37年(ナ)3号 判決

原告 吉川作治 外八名

補助参加人 宇良田彰人

被告 熊本県選挙管理委員会

補助参加人 高橋重博

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中原告ら補助参加人の参加によりて生じた分は、同参加人の負担とし、その余(被告補助参加人の参加によりて生じた分を含む)は全部原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら訴訟代理人は「昭和三七年六月二三日施行の牛深市長選挙の当選の効力につき原告らのなした訴願に対し、被告が同年一〇月二六日付をもつてこれを棄却した裁決を取り消す。本件選挙会において当選人と決定した高橋重博の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二、被告指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、原告ら訴訟代理人主張の請求原因

(一)、昭和三七年六月二三日施行せられた牛深市長選挙(立候補者は宇良田彰人、高橋重博の両名)について、右選挙の選挙会は即日開票の結果、投票総数一六、六五八票、無効投票数一一五票、得票数候補者高橋重博八、二八一票、候補者宇良田彰人八、二六二票として候補者高橋重博の当選と決定し、その頃牛深市選挙管理委員会はその旨を告示した。

原告らはいずれも右選挙における選挙人であるが、右委員会に対し右選挙及び当選の効力に関する異議申立をなし、同年七月一日右異議申立棄却の決定を受けたので、さらに被告委員会に対し右選挙及び当選の効力に関する訴願を提起したところ、被告は右選挙の効力に関する訴願に対しては、選挙の無効を招来すべき違法事実は認められないものとし、右当選の効力に関する訴願に対しては、その全投票について調査した結果、高橋候補の有効投票数は八、二七〇票、宇良田候補の有効投票数は八、二六四票となるから、右選挙会決定の当選者には異動がないとの理由により原告らの訴願を棄却する旨裁決し、その裁決書は原告らに対し昭和三七年一一月六日送達された。

(二)、しかし、左記のとおり、被告のなした右候補者両名の得票数の裁決には誤りがある。

(1)、本件選挙に際し、訴外川上守信、川上芳枝、森正男、森桂子、永江満、永江ウメ子、池田富士人、池田信子ら八名は外数名と共に、いずれも法定の除外事由がなく、引続き三箇月以上牛深市の区域内に住所を有しないため、本件選挙の選挙権を有しない者であつたのに拘らず、当該補充選挙人名簿に登載されたのを奇貨として、それぞれ選挙権を行使し、全員が高橋候補に投票した。従つて、被告の右裁決に示された高橋候補の有効得票数八、二七〇票は、少くとも右の無効たるべき八票を差引いた八、二六二票以下に減ぜられるべきである。

(2)、被告の裁決した無効投票中に、左記各投票(右投票はすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)が存するが、いずれも宇良田候補に対する有効投票とせられるべきである。

(い)、1、2、3、5、6、7、8は、いずれも宇良田候補の氏名を誤記したものとして、同候補の有効投票と認めるべきである。即ち、宇良田候補の祖先は、徳川時代より明治二〇年頃まで「浦田」姓を称し、明治二〇年の戸籍法制定の際、「宇良田」姓に改めたが、その読み方はいずれも「うらた」で同一であり、その後も郵便物などには「宇良田」と「浦田」の両様の苗字が用いられる実情にあつたし、牛深地方では「浦田」姓を称する者が八十余世帯の多数に及び、「うらた」といえば、一般に「浦田」と書く習性があつたので、右2の投票が「浦田」と記載しているのも、明らかに宇良田候補を指向しているものと認めるべきである(以下に述べる投票中「浦田」と記載されているものについては、すべて同様のことがいえる)。被告補助参加代理人が指摘するとおり、本件選挙当時牛深市に浦田宇次郎(昭和二年五月一三日生)なる人物が一人実在したが、同人は昭和二九年と同三三年の二回、牛深市議会議員に当選したが、二回目は僅か数箇月で辞任し、同三四年四月熊本県議会議員選挙に立候補して落選し、以来父の経営する巾着網漁業と水産加工業に従事しているに過ぎず、到底社会的に有名人とはいえなかつたし、また本件選挙の事務関係者でもなかつたから、右各投票をした選挙人の意思は同人に当選を得しめる目的であつたとは到底目し難い。従つて、公職選挙法第六七条の法意に則り、右各投票はいずれも宇良田候補の氏名を誤記したものとして取扱うべきものである。

(ろ)、4は、宇良田候補の氏名の誤記として、同候補の有効投票と認めるべきである。本件選挙当時、牛深市に「浦田一郎」なる人物が在住していたが、同人は漁業組合の一員として小規模のあぐり網漁業を営むに過ぎず、到底有名人とはいえないから、前同様に、右投票も宇良田候補に投票せんとして誤記したものと推定すべきである。

(は)、9は、「うらした」と書き、その「し」を不用として抹消せんとし、間違えて「ら」を抹消したとみられるから、宇良田候補の有効投票と認めるべきである。

(に)、10は、これを精査すると、「ウラ」と記載されていることが確認でき、宇良田候補に投票する意思で、その「タ」の一字を遺脱したものとみられるから、同候補の有効投票とすべきである。

(ほ)、11は、「ウニタ」の左文字であつて、「ラ」と記載するのを「ニ」と誤記したとみるのが相当であるから、宇良田候補の有効投票である。

(へ)、12は、拙劣ではあるが、「ウラタ」の左文字であるとみられるので、宇良田候補の有効投票と認めるべきである。

(と)、13は、「宇良田徒然氏」の意である。宇良田候補は昭和二〇年牛深市に引揚げた後、同二二年四月牛深町長選挙に立候補して落選して以来、同二四年まで非常勤の牛深町岡東区長を勤めたほかは、同二八年一月牛深町常任監査委員に就任するまで全く就職せず、常に無聊をかこち、来客に対しては口癖のように「徒然なか」を連発し、本人亦自ら徒然居士と称し、周辺の人々から「徒然氏」と愛称をもつて呼ばれていたこともある。従つて、右投票は明らかに宇良田候補の有効投票と認めるべきである。

(ち)、14は、その記名の上下に( )が附されているが、右は宇良田候補の氏名を明らかにするための、しめくくりの趣旨に過ぎず、何ら有意の他事記載ではなく、同候補の有効投票と認めるべきである。

(3)、被告の裁決した高橋候補の有効投票中に、左記各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)が存するが、いずれも無効投票とせられるべきである。

(い)、15は、明らかに「高本」とあつて、「高木」ではないから、「高橋」と書くべきところ、その橋の字のつくり「喬」を遺脱し又は書くことができなかつたと推定することはできないから、結局右投票は高橋候補を指向したものといえず、無効投票とすべきである。

(ろ)、16は、その初めの二字が書体をなさないので、到底高橋候補に投票する意思で記載されたものとはみられず、無効投票である。

(は)、17は、その「カ」の字の左肩に「」の文字又は記号が付されているから、右は有意の他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(に)、18は、その上部に書損とはいえない「」の符号形状が記載されているので、これを有意の他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(ほ)、19は、その「タ」と「シ」の他は文字の型をなさず、到底「タカハシ」とは判読すべくもないので、無効投票と認めるべきである。

(へ)、20は、全く文字の体をなさず、しかも逆に記されていて、到底「タカハシ」とは判読できないから、無効投票と認めるべきである。

(と)、21は、高橋候補の住所の地名を記載したものではない。即ち、高橋候補の住所地は「宮崎」であつて、「橋宮崎」なる名所は存在しない。従つて、右投票は高橋候補に投票したものと目することはできず、無効投票とすべきである。

(ち)、22は、その最後の「シ」の字以外は判読できず、何人を記載したか不明であるから、無効投票と認めるべきである。

(り)、23、25は、高橋候補の住居地を指称したものか、それとも、本件選挙当時同候補の有力な選挙運動者の一人に宮崎真一なる人物がいたし、牛深市内に宮崎姓を称する者は多数いたから、これらの宮崎姓を称する者を指称したのか、明らかでないので、無効投票と認めるべきである。

(ぬ)、24は、到底「たかはし」と判読できず、何人を投票したか不明であるから、無効投票と認めるべきである。

(る)、26は、「ハタハジ」と読まれ、高橋候補に投票したものとはいえない。仮りに然らずとすると、「シ」の右斜の上に「」と画いたのは、明らかに濁点ではなく、有意の他事記載と目すべきであるから、いずれにしても無効投票と認めるべきである。

(お)、27は、その記名の上部の記載が、形状場所などよりして単なる書損とはみれず、明らかに有意の他事記載とみるべきであるから、無効投票と認めるべきである。

(わ)、28は、その記名の下部に「ロ」の形状の符合が記載されており、右は「に」の字ともみられるので、明らかに有意の他事記載と目されるから、無効投票と認めるべきである。

(か)、29は、その記名の右肩に「」の符号が記載され、それは単なる書損ではなく、有意の他事記載と目すべきであるから、無効投票と認めるべきである。

(よ)、30は、その記名の左側に「」の符号が記載され、それは前同様他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(た)、31は、その記名の下部に「」の符号が記載され、それは前同様他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(れ)、32は、その記名の右側に二つの線が画かれ、それは前同様他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(4)、以上のとおりで、これを計算すると、宇良田候補の有効得票数は、被告の裁決に示された同候補の得票数八、二六四票に、前記一の(二)の(2)の一四票を加算した八、二七八票となるのに対し、高橋候補の有効得票数は、被告の裁決に示された同候補の得票数八、二七〇票より、前記一の(二)の(1)及び(3)の合計二六票を差引いた八、二四四票となり、宇良田候補の有効得票数が高橋候補のそれより三四票だけ多くなることは計数上明らかであるから、宇良田候補が本件選挙の当選者となるべきであつて、これと異なる被告の裁決は違法として取り消されるべきものである。

(三)、本件選挙については、選挙の規定に違反し選挙の結果に異動を及ぼす虞れのある違法事実も存在する。

即ち、本件選挙に使用せられた投票用紙の中には、所定の寸法を具備しない寸足らずの用紙が相当多数使用されており、また、白紙投票として無効投票と判定された投票の一枚には、その上に別の投票用紙を重ね、その上から硬筆で「たかはし」と記載したものと推定される、その筆蹟が薄くついているのが検証の結果により確認されるので、少くとも同一選挙人に二枚以上の投票用紙が交付されたか、或は無効票を有効化するための操作がなされた事実のあることが推定される。さらに、本件選挙の開票手続の実情について観るのに、午後九時以降三〇分毎に選挙長から候補者の得票数の中間発表が行われる予定であつたところ、疑問票判定のため午後一〇時の発表は中止され、右判定が終つたと思われる午後一〇時半過ぎ頃には、すでに投票点検係の糸川一郎や投票計算係の山下脩らは独自にいち早く手元の資料で得票数を計算し、宇良田候補が最終的に八一票の差で勝つたことを察知する一方、その情報が他に伝播した。ところが、その後高橋候補の関係者多数が開票所内に入り込んで右往左往し、開票事務従事者の島津、平山、清水、小島、樋口、畑込、福島ら多数の者も右往左往して集計済の投票を攪拌し、開票立会人から一喝される程の有様であつた。そのうち、記録係の机上に高く積み上げられていた数千票の投票が床上に落下せしめられ、また、記録係の島津純一郎は集積されていた宇良田候補の得票の中から、高橋候補の得票が混つていたといつて、五〇票綴り一束を取り出し、開票立会人の諒解も得ず、勝手に高橋候補の集積した得票中に混入した事実もあつた。しかも、その後故意に、得票数の判定に二時間余が空費され、その後の得票数の発表においては、それまで終始優位にあつた宇良田候補が高橋候補に逆転されるに至つた。これら諸般の事情を綜合すると、少くとも宇良田候補の得票五〇票を、高橋候補の得票中に置き替え加算する工作が講ぜられたものと推定されるのである。これを要するに、本件選挙はその管理執行に関する規定に違反し、管理、投票及び開票を通じて公正を著しく欠いだことを疑うに余りあるものというべきである。

二、原告ら訴訟代理人の被告補助参加人の主張に対する主張、

以下述べるところにより、被告補助参加人の主張は理由がない。

(一)、被告補助参加人において、被告の裁決した無効投票のうち一二票を、高橋候補の有効投票とすべき旨主張するが、右各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)は、いずれも被告の裁決どおり無効投票とせられるべきものである。

(1)、33は、明らかに「タカヒラ」と読まれ、本件選挙当時牛深市に開業数十年に及び高名の外科医高比良達磨が実在するので、右投票は候補者以外の者になされたものとして、無効投票と認めるべきである。

(2)、34、35、36は、いずれも候補者の氏名ではないし、その音感についても全く類似性がないから、すべて無効投票と認めるべきである。

(3)、37は、「タ」と読まれるが、候補者の氏名を記載したものとはいえないから、明らかに無効投票とすべきである。

(4)、38は、その左側の「」の符号を、有意の他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(5)、39は、その最後の「へ」の一字を、有意の他事記載として、明らかに無効投票とすべきである。

(6)、40、42、43、44は、いずれも候補者の氏名を記載したものでないから、当然無効投票とすべきである。

(7)、41は、その最後の「―」の符号を、有意の他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(二)、被告補助参加人において、被告の裁決した宇良田候補の有効投票のうち二五票を、無効投票とすべき旨主張するが、右各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)は、いずれも被告の裁決どおり有効投票とせられるべきものである。

(1)、45は、「ウラタシゲト」と書載され、牛深市に同名の漁師が実在したが、同人は到底知人名であるとはいえないので、立候補制度をとる現行選挙法の立前よりして、これを有効投票と認めるべきである。

(2)、46は、「ムラタ」と読めるが、宇良田候補の「ウラタ」と音感が著しく似ているし、他に「村田」姓を称する者が二、三実在するが、その者に投票したと目すべき名の記載がないから、これを有効投票と認めるべきである。

(3)、47は、これと同名の者は牛深市に実在せず、その氏の「浦田」は前記のように宇良田候補の氏を指向しているといえるから、有効投票と認めるべきである。

(4)、48は、その名が「タカシ」又は「カカシ」とも読めるが、そのような名を有する者は選挙人中に実在しないので、有効投票と認めるべきである。

(5)、49は、その筆勢よりして、その左上肩の棒線が不用意に過つて書かれたものとみられるので、それを有意の他事記載と目することはできず、有効投票と認めるべきである。

(6)、50は、その下部の「」の記載が、句切りとして無意識に書かれたと認められるので、有投投票とすべきである。

(7)、51は、その右側上部の「」の記載が、「宇」の字を書きかけて完全に書けないため、これを抹消した記載とみられるから、有効投票と認めるべきである。

(8)、52は、有意の他事記載と目すべきものはなく、有効投票とすべきである。

(9)、53は、筆勢、文字の位置等よりして、その右肩の「―」は、平仮名で「ラ―」と書いて、これを抹消するとき、その一字目だけを抹消したのみで、二字目の抹消を失念したため生じたものとみられるので、有効投票と認めるべきである。

(10)、54は、その右側の「ウ」の記載が、その「浦田」の氏名に訓をつけようとして書いたか、又は念のため「ウラタ」と記載せんとして書いたものと推定されるから、有効投票とすべきである。

(11)、55は、有意の他事記載と目すべきものはなく、有効投票とすべきである。

(12)、56は、当該投票用紙全体の状況よりして、その上部の破損部分が投票者の単なる過失により生じたものと推定されるから、有効投票と認めるべきである。

(13)、57は、その上部の「」の記載が、「ウ」の字を書かんとして上部の点を書いただけで中止し、改めて下部に書き直したので、上部の「」の記載は書損であつたが、その抹消を失念したものと推定されるから、有効投票と認めるべきである。

(14)、58、61、63、64は、いずれも稚拙な筆跡で、一部に誤記、書損又は遺脱の個所もあるが、その運筆などよりして、すべて「ウラタ」と記載せんとしたものであると認められるから、全部有効投票とすべきである。

(15)、59は、有意の他事記載と目すべきものはなく、有効投票とすべきである。

(16)、60は、その左側の「」の記載が不用意に過つて書かれたものとみられるので、有効投票と認めるべきである。

(17)、62は、逆字であつて、その逆字の上部の「」の記載は「ウ」の字の書損であつて、その抹消を失念したものとみられるから、有効投票と認めるべきである。

(18)、65は、宇良田候補の姓の「ウ」と名の「人」のみを記載したものと認められるから、有効投票とすべきである。

(19)、66は、宇良田候補が市長選挙には初めて立候補した者であるから、明らかに有効投票と認めるべきである。

(20)、67は、その名の「ひこ一」が熊本県の民話、民謡に由来する男性の愛称といえるから、有効投票と認めるべきである。

(21)、68は、その最後の「」の記載が単なる書損で抹消を失念したものとみられるから、有効投票と認めるべきである。

(22)、69は、その上部の「」の記載が単なる書損であることが明らかであるから、有効投票と認めるべきである。

三、原告ら補助参加代理人の主張

原告ら訴訟代理人主張の如く、本件選挙の開票手続中疑問票の判定も終了し、開票事務従事者において候補者の全部の得票数を集計した結果では、宇良田候補が少くとも八一票の差で勝つていたのに、その後宇良田候補の得票のうち少くとも五〇票綴り一束が高橋候補の得票中に混入され、同候補の得票中に加算されたため、宇良田候補が最終段階で逆転して破れるに至つたものである。従つて、宇良田候補の得票は、最高一〇〇票、最低五〇票が奪われているから、この分は宇良田候補に復元すべきであり、その結果は宇良田候補が当選すること明らかである。

四、被告指定代理人の答弁並びに主張

(一)、原告ら訴訟代理人主張の請求原因中(一)の事実はすべて認める。

しかし、被告のなした裁決は正当であつて、これに反するその余の請求原因事実はすべて否認する。

(二)、原告ら補助参加代理人の主張事実はすべて否認する。

(三)、原告ら訴訟代理人主張の選挙権を有しない訴外川上守信ら八名の者は、いずれも適法な補充選挙人名簿登録申請により、本件選挙の選挙権を有する者として同名簿に登録され、その適法に確定された同名簿に基づき投票した(但し、訴外池田信子は選挙当日棄権した)ものであるから、その投票はすべて有資格者の投票というべきである。

もし、仮りに右投票が右主張の如く選挙権を有しない者の投票であるとしても、その投票は公職選挙法第二〇九条の二に規定する潜在無効投票に該当し、各候補者の得票数に応じ按分して得た数をそれぞれ差引くべきものであるから、本件選挙の選挙会において決定された各候補者の当落の順位に異動を及ぼすものではない。原告ら訴訟代理人は、前記訴外人らがいずれも高橋候補に投票した旨をも主張するが、かかる事実の主張は憲法が明定する選挙の基本たる投票の秘密を無視するものであり、到底許されるべきものではない。

(四)、原告ら訴訟代理人主張のように、本件選挙に使用された投票用紙の中には、所謂寸足らずのものが若干存在するが、その寸足らずの程度は極めて僅かなものであり、その程度の寸法の誤差は右用紙の印刷所における裁断時に生じたものと推定され、未だ、これが成規の投票用紙たるに欠くるところはない。

また、本件選挙の開票手続は、終始平穏裡に秩序正しく公正に行われたものであつて、原告及び原告補助参加人らが本件選挙の開票事務につき、各候補者の得票数の増減、投票の差し替え、投票の変造加筆等が行われて公正な事務執行がなされなかつたと主張するのは、単なる疑心暗鬼に由来するものというべきである。

五、被告補助参加代理人の主張

左記のとおり、被告のなした各候補者の得票数の裁決には誤りがある。

(一)、被告の裁決した無効投票中に、左記各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)が存するが、いずれも高橋候補に対する有効投票とせられるべきである。

(1)、33、34は、いずれもその初めの二字が「タカ」であつて、高橋候補の氏の「タカ」に合致し、牛深市に「タカヒラ」、「タカユキ」と称する著名な人物もいないから、右各投票はいずれも高橋候補を投票する意思でなされたものといえるので、有効投票と認めるべきである。

(2)、35、36は、いずれも高橋候補の通称化された家号によつて同候補を表示したものとして、有効投票と認めるべきである。即ち、高橋候補自身は昭和二二年以前は約二五年間に亘り郷里を離れていたが、同候補の郷里の実家は古くより浜屋という家号をもつて実姉杉本重子が旅館業を経営し、その家号の標章として「」すなわち「山木」を使用し、高橋家は「大和屋」の家号を称し、世間一般に右家号、標章が周知されていたから、「山木」と記載された投票は右標章により高橋候補を表示したものであり、「大八」と記載された投票は、家号の「大和」―「ダイワ」に通じ、右家号により同候補を表示したものといえるからである。

(3)、37は、「タ」と判読され、その稚拙な筆蹟よりして、「タカハシ」と書くつもりで「カハシ」を書くことができなかつたものと目されるので、有効投票と認めるべきである。

(4)、38は、その記名の左側に「」が画かれているが、右投票は万年筆で書いたものであることが明らかであつて、右の「」はその位置、形状、筆勢からインキの出具合をみるためか、無意識、不用意につけられたものであると推定されるので、それは有意の他事記載ではなく、有効投票と認めるべきである。

(5)、39は、その最後の字は「様へ」と書いたものでなく、その運筆の状態からみて、様の一字の末端を延ばし過ぎたものか、又は「様」を「さ」として「ん」の余計な送り仮名をつけ加えたものであつて、敬称に含まれるとみるべきであるから、有効投票と認めるべきである。

(6)、40は、二字目が「カ」、三字目が「ハ」とあつて、「タカハシ」のうちの「カハ」を指し、その筆致よりみて、文字をよく知らぬため「タ」を「ク」と誤記し、又「シ」を「タ」と誤記したものと推測されるので、有効投票と認めるべきである。

(7)、41は、鉛筆で書かれたもので、その最後の「―」の記載は、「たかはし」と書いた後つい筆が走つて不用意につけられたものとみられるので、有意の他事記載とはいえず、有効投票と認めるべきである。

(8)、42は、筆勢からみて、文字に習熟しない者の記載であり、「タカハシ」と書くつもりで、「タ」の次に「カ」を書けないか、脱漏するかして、次に「ハ」を書き、「ラ」は「シ」の字と考えて書いたものと推測されるので、有効投票と認めるべきである。

(9)、43は、前同様文字に習熟しない者の記載であつて、「たかはし」の中の「かは」の二字が書けず、単にその上下の字である「たし」と書き、その名「しげひろ」の「しげひ」の字が書けず、「ろ」の一字のみを書いたが、自信がなく抹消したものとみられるので、有効投票と認めるべきである。

(10)、44は、「カ」の字のつく候補者が高橋候補だけであるから、有効投票と認めるべきである。

(二)、被告の裁決した宇良田候補の有効投票中に、左記各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)が存するが、いずれも無効投票とせられるべきである。

(1)、45は、宇良田候補の氏名を記載したものとはいえないから、無効投票と認めるべきである。

(2)、46は、「林田」と判読されるところ、本件選挙当時参議院議員通常選挙も告示されていて、同選挙に立候補した著名な人物である林田正治のポスター等が牛深市内各所にも掲示され、活発な同人の選挙運動が展開されていたので、右投票は本件選挙における候補者以外の者の実在人物の氏名を記載したものとして、無効投票と認めるべきである。

(3)、47は、宇良田候補を指向しているとはいえないから、無効投票と認めるべきである。

(4)、48は、宇良田候補の氏名、その音感と全く相違し、同候補が「案山子」なる雅号、通称を有していたこともないから、その「カカシ」は有意の他事記載として、無効投票と認めるべきである。

(5)、49、50、51、52、53、54、55、57、59、60、62、65、68、69は、それぞれ左記の記載部分につき有意の他事記載があるものとして、いずれも無効投票と認めるべきである。即ち、49はその左上肩の棒線、50はその右下方の「」、51はその右側上部の「」、52はその下部の「」、53はその右側の「―」、54はその右側の「ウ」、55はその下部の「」、57はその上部の「」、59はその二字の中間の「-」、60はその左側の「」、62はその下部(但し、逆字としてみるときは上部)の「」、65はその下部の「」、68はその下部の「」、69はその上部の「」の各記載部分は、すべてその位置、形状等からみて不用意に過つて記載されたものとはみられず、有意の他事記載と認めるべきである。

(6)、56は、その用紙が破損しており、右破損の個所、形状(二つ折りの個所を破つたもの)よりして、選挙人が投票の際意識的に破つたものと推定されるので、無効投票と認めるべきである。

(7)、58、61、63、64は、いずれも「ウラタ」とは判読できず、何人を投票せんとしたか不明のものとして、すべて無効投票と認めるべきである。

(8)、66は、「ことしはじめてでる人」と記載しているのに、宇良田候補は昭和二二年施行の牛深町長選挙に立候補しており、選挙に初めて立候補した者でないから、宇良田、高橋両候補のいずれをも表示していないことになるので、無効投票と認めるべきである。

(9)、67は、その最後の「―」が位置、運筆よりみて有意の他事記載と目されるし、仮りに「ひこ一」即ち「彦一」と訓むとしても、「彦一」は熊本県内の民話に出る人物であつて、狐にだまされるのろまな男、うかつもの又は低級無能な男を指し、侮蔑の意味をもつ名前であるから、無効投票と認めるべきである。

(三)、以上のとおりで、これを計算すると、高橋候補の有効投票数は、被告の裁決に示された高橋候補の得票数八、二七〇票に、前記五の(一)の一二票を加算した八、二八二票となるのに対し、宇良田候補の有効投票数は、被告の裁決に示された宇良田候補の得票数八、二六四票より前記五の(二)の二五票を差引いた八、二三九票となり、高橋候補の有効投票数が宇良田候補のそれより四三票だけ多くなることは計数上明らかであるから、高橋候補が本件選挙の当選者となるので、結局被告の裁決は各候補者の得票数の点については誤りがあるが、その結論たる当選者の判定については正当というべきである。

六、被告補助参加代理人の原告ら訴訟代理人の主張に対する主張

以下述べるところにより原告らの主張は理由がない。

(一)、原告らにおいて、被告の裁決した無効投票のうち一四票を、宇良田候補の有効投票とすべき旨主張するが、右各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)はすべて無効投票とせられるべきものである。

(1)、1、2、3、5、6、7、8は、いずれも宇良田候補を指向するものでなく、候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効投票と認めるべきである。即ち、牛深市に浦田宇次郎なる人物が実在し、同人は昭和三三年七月及び同三七年七月各施行の同市議会議員選挙に立候補し、前者では最高点、後者では第二位で各当選している現市議会議員であり、同三四年四月施行の熊本県議会議員選挙にも立候補し、その際は落選したが、その後の県議会議員選挙には有力候補者として噂され、地方新聞にもその旨登載されるなど、選挙の度毎に爼上にのぼる有力人物で、その氏名は一般に周知されている著名人である。従つて、右各投票は到底宇良田候補に投票せんとしたものとは認められず、明らかに候補者でない者の氏名を書いたものと認めるべきである。

(2)、4は、前同様の理由で無効投票とすべきである。即ち、牛深市に浦田一郎なる実在の人物がおり、同人方は同市における父祖以来の財閥一方の旗頭であつて、有力な網元漁業家である。しかも、右一郎は市消防副団長を勤めたこともあり、組合員数十名で組織する川長漁業生産組合の組合長に就任していて、指導者の地位にあり、同地一般人の知る著名人である。従つて、右投票も候補者でない者の氏名を書いたものと認めるべきである。

(3)、9、10は、何人を記載したか全く不明であるから、無効投票とすべきである。

(4)、11、12は、いずれも「ウラタ」と判読できず、何人を記載したか不明であるが、仮りに然らずとしても、その形状、筆致、墨色等から、型紙を利用描出せんとし、誤つて左文字に書いたものとみられるから、無効投票と認めるべきである。

(5)、13は、候補者の何人を記載したか確認し難いものとして、無効投票と認めるべきである。即ち、「トセンシ」は宇良田候補の名でなく、仮りにこれを徒然氏(トゼンシ)の意としても、同候補がかかる雅号、通称を有していたことは一般に周知されていないし、このような雅号等を知る者であれば、「宇良田」を「浦田」と誤記する筈もない。従つて、右投票は到底宇良田候補を指向することが明らかとはいえないから無効投票とすべきである。

(6)、14は、その記名の上下に( )が付されており、右は明らかに有意の他事記載として、無効投票とすべきである。

(二)、原告らにおいて、被告の裁決した高橋候補の有効投票のうち二六票を、無効投票とすべき旨主張するが、右各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)はすべて有効投票とせられるべきものである。

(1)、15は、その文字の配置、態様からみて、「高橋」の二字目の「橋」の「木」偏を「本」と誤記し、つくりの「喬」を書くことができなかつたか、又は遺脱したものとみられるから、高橋候補を指向していることが明らかであるので、有効投票と認めるべきである。

(2)、16は、稚拙な記載であるが、「タカハ」と判読できると共に、「タカハシ」と書く意思で、「シ」の字を知らないか、又は遺脱したものとみられるから、有効投票と認めるべきである。

(3)、17は、文字の配列よりして、その「カ」の字の左肩の「」の記載は、「カ」と書きかけて不用意に左に片寄り過ぎたため、抹消訂正したものであることが明らかであるから、有効投票とすべきである。

(4)、18は、その上部左側の「」の記載が、「高」と書きかけて、はつきり書けずにこれを抹消したものであることが明らであるから、有効投票とすべきである。

(5)、19は、稚拙な記載であるが、一字目は「タ」、三字目は「シ」と読めるし、二字目は「カ」と「ハ」が重つており、四字目は高橋候補の名「重博」(しげひろ)の「し」を平仮名で書きかけたが、これを抹消し、片仮名の「シ」のみを書いたものとみられるので、有効投票と認めるべきである。

(6)、20は、逆字であつて、稚拙ではあるが、「タカハシ」と判読できるから、有効投票と認めるべきである。

(7)、21は、当初「タカハシ」と書くのを「ハシ」と誤記し、その上に「タカ」と書くのを遺脱したため、高橋候補の居住地の宮崎をその下に書いたものとみられるから、有効投票と認めるべきである。

(8)、22は、「タハシ」と判読され、「タカハシ」と書く意思で、「カ」を遺脱したか、又は書けなかつたものとみられるから、有効投票とすべきである。

(9)、23、25は、いずれも高橋候補の居住地の部落名をもつて同候補を表示したものとして、有効投票と認めるべきである。即ち、高橋候補が宮崎という部落に居住していることは、一般に周知されるところであつて、牛深市に宮崎真一なる実在人があるが、同人は高橋候補の選挙運動者でもなく、一介の小市民で、もとより知名人ではない。従つて、右投票は高橋候補をその居住地の部落名により表示したものと認めるべきである。

(10)、24は、その一字目が平仮名の「た」が斜に書かれたもの、三字目が「は」とみられるから、有効投票と認めるべきである。

(11)、26は、拙劣な記載ではあるが、「ハタハジ」と判読され、「タカハシ」と音感類似し、高橋候補に投票する意思で、「タカ」を「ハタ」、「ハシ」を「ハジ」と誤記したものとみられるから、有効投票と認めるべきである。

(12)、27は、その上部の「」の記載が、「高」の字を書損じたのを抹消したものとみられるから、有効投票と認めるべきである。

(13)、28は、その最後の字が「に」ではなくて「ロ」であり、その文字が稚拙である点よりして、一応「たかはし」まで書き、下欄が狭くなつたため、その名「しげひロ」の「ロ」の字のみを書いたとみられるから、右「ロ」は有意の他事記載でなく、有効投票と認めるべきである。

(14)、29は、当初片仮名で「タ」と書いたが、右に片寄り過ぎたため、これを抹消し、改めて平仮名で「たかはし」と書き直したものとみられるので、有効投票と認めるべきである。

(15)、30は、当初「タか」と片仮名と平仮名とで書いたため、これを抹消し、改めて片仮名で「タカハシ」と書き直したものであるが、右「タか」を抹消するのに、平仮名の「か」の「ヽ」を別個に抹消したので、恰も「メ」の型ができたものとみられるから、「メ」は有意の他事記載でなく、有効投票と認めるべきである。

(16)、31は、その最後の「」の記載が、高橋候補の名「重博」の「重」のくづし字とみられるから、有効投票と認めるべきである。

(17)、32は、有意の他事記載と目すべきものがないので、有効投票と認めるべきである。

第三、当事者の提出援用した証拠と書証の認否〈省略〉

理由

一、原告ら主張の請求原因中(一)掲記の事実は、すべて当事者間に争いがなく、原告らが被告の本件裁決書の交付を受けた日から三〇日以内に本訴を提起したことは本件記録上明らかである。

二、そこで先ず、右請求原因中(三)掲記にかかる原告らの選挙無効の主張について審案する。

本件選挙に使用せられた投票用紙の中に、所謂寸足らずの投票用紙が若干数存在することは当事者間に争いがなく、第一、二回検証の各結果に徴すると、右寸足らずの用紙は他の通常の用紙に比して、その横幅のみが僅かに〇、三糎位短いだけであつて、その差異は、これが印刷製造の際における裁断の過程で生じたものであることが明らかであり、その他の部分はすべて所定の様式を完備していることも明白であるから、右寸足らずの投票用紙は、単に寸法の点で僅かの差異があるに過ぎず、社会通念上優に同一式の用紙と認め得るので、何ら成規の投票用紙たるに欠くるところはない。また、第二回検証の結果に徴すると、白紙投票として無効投票と判定された投票の一枚には、その上に別の紙類――それが原告ら主張の如き投票用紙であつたとする証拠は全く存しない――を重ね、その上から「たか」の字を記載したと推定される、その筆蹟が薄くついていることが認められるが、右痕蹟のできた事情は全く不明であるから、この一事より直ちに同一選挙人に二枚以上の投票用紙が交付され、又は無効票を有効化するための操作がなされた事実を推定することの許されないのは多言を要しないところである。さらに、原告らは、本件選挙の開票事務が進められた際、その途中で疑問票の判定が終了した頃(当日午後一〇時半過ぎ頃)、一部の開票事務従事者がいち早く独自に手元の資料で各候補者の得票数を計算し、宇良田候補が最終的に八一票の差で勝つたことを察知する一方、その情報が他に伝播するや、高橋候補の関係者や多数の開票事務従事者が開票所を右往左往して、集計済の投票を攪拌し、また、机上に積み上げられていた数千票の投票が床上に落下せしめられ、更に開票事務従事者の一人は、集積されていた宇良田候補の得票中から、勝手に五〇票綴り一束を取り出して、これを高橋候補の集積した得票の中に混入し、その得票数の集計に際し、右五〇票を高橋候補の得票数のうちに加算集計するなど、開票手続の管理執行に関し幾多の違法事実があつた旨主張し、証人橋本重義、馬場徳松(第一、二回)、馬場照子、笹田叶、尾崎正弘、池田岩助、矢田秀雄は、それぞれ右主張の一部に副う如き証言をするが、右証言部分の多くは伝聞証言であつて、証人竹中忠行(第一、二回)、梅田角馬、島津純一郎、井上鶴夫、森平八郎、糸川八郎、若松政仁、沢田道信、山下脩、値賀司郎の各証言に比照して到底措信し難く、甲第六ないし第一〇号証の各一、二によつても右判断を左右するに足らない。もつとも、右各証拠に徴すると、本件選挙の開票事務が行われていた際、開票立会人橋本重義が一部の事務連絡員らに対し、濫りに席を離れて歩かないように大声で一度注意を与えた事実のあることが窺えるが、これによつて開票所内の秩序が混乱したことはなく、終始秩序の保持されていたことが優に認められ、また、各候補者毎に各三名が一組となつて、その当該担当候補者の分の得票計算をしていた各組の係員の間において、開票手続の途中各組の一名の係員の得票計算と、その組の他の二名の計算とそれぞれ五〇票分について不符合となつていた事実のあることが窺えるが、右不符合は即時調査の結果各組の合致している二名の計算が正しく、他の一名の計算がメモのつけ間違いをしたものであることが明らかとなり、これを適正に訂正処理されたことも認められ、その間に不公正な取り扱いがなされた事実は全く認め難く、第一、二回検証の各結果に徴しても明らかな如く、本件選挙会の発表した各候補者の得票数に合致した数の投票――右投票について変造、加筆等が行われたことを認め得る証左はない――が現在保管されていることに鑑みれば、右認定を裏付するに充分のものがあるといえよう。原告及び原告補助参加人らは、宇良田候補の得票五〇票が高橋候補の得票数の中に不正加算されている旨強く主張し、原告補助参加人は甲第一〇号証の一、二を根拠としてこの点につき縷縷陳述するが、これを仔細に検討しても、未だ右主張を認めるに足らず、他にこれを肯認すべき証拠もない。畢竟、本件選挙の自由公正に影響を及ぼすような選挙の管理執行に関する規定違反は全く存せず、選挙の無効を招来すべき事由は発見することができない。

三、そこで進んで、被告のなした各候補者の得票数に関する判定の当否について審案する。

(一)、原告ら主張の請求原因中(二)の(1)の主張については、たとえ右主張のように、訴外川上守信ら八名外数名の者が、いずれも本件選挙の選挙権を有せずして投票したものであるとしても、右投票はすべて公職選挙法第二〇九条の二に規定する潜在無効投票として処理すべきものであるところ、証人梅田角馬の証言に徴し本件選挙の開票区が単一であることも明らかであるから、本件各候補者の得票数から、右の無効投票数を各候補者の得票数に応じて按分して得た数をそれぞれ差引くことになるので、結局右主張事実は本件各候補者の当落の順位に異動を及ぼすものでないことが明らかである。而して、原告らは、右川上ら数名の者がすべて高橋候補に投票した旨主張するが、憲法により保障されている投票の秘密保持の原則に照し、選挙争訟の審理上右川上ら数名の者が何人に投票したかを調査すべきではなく、たとえ本人らが自発的に自らの投票した被選挙人の氏名を表明したときであつても、それは帰属不明の投票として取り扱わなければならないものと解すべきである(最高裁昭和二五年一一月九日判決、民集四巻一一号五二三頁参照)。従つて、原告らの右主張はその余の点について判断するまでもなく、すでにその主張自体理由がないものというの外はない。

(二)、ついで、原告らにおいて、被告の裁決した無効投票のうち宇良田候補の有効投票であると主張する各投票(右投票はすべて別紙目録記載の番号をもつて示す。なお右裁決における有効票無効票の判定の内容が当事者双方の以下それぞれ主張するとおりであることは成立に争のない甲第一号証及び弁論の全趣旨に徴し認められる)について、以下順次に判断する。

(1)、1、2、3、5、6、7、8は、いずれも候補者でない者の氏名を記載したものであつて、到底宇良田候補を指向することが明らかな投票とは認め難いので、すべて無効投票と認める。即ち、成立に争いのない丙第一九ないし第二一号証、証人鬼塚一の証言によると、本件選挙当時牛深市に浦田宇次郎なる人物が実在し、同人は昭和三三年七月施行の同市議会議員選挙に立候補して当選(以上の事実は原告らと被告補助参加人との間では争いがない)し、また本件選挙の翌月施行の同市議会議員選挙にも当選しており、本件選挙当時同市における政治面の著名人であつたことが容易に認められ、右認定に反する証人浦田忠敬の証言部分はにわかに措信できず、他に右認定を左右できる証拠はない。而して、右各投票はすべて明瞭に「浦田宇次郎」又はこれを仮名で記載されており、宇良田候補の氏名とはその音感についても全く類似性がないので、これら諸般の事情に照し、右各投票はすべて候補者でない者の氏名を記載した投票として、無効投票と認められる。

(2)、4は、前同様の理由により無効投票と認める。即ち、成立に争いのない丙第二六号証の一、二、証人鬼塚一の証言によると、本件選挙当時牛深市に浦田一郎なる実在人物がおり(右事実も前同様当事者間に争いがない)、牛深漁業の開発者として同人の記念碑も建てられ、同人は川長生産組合の組合長をつとめる傍ら消防団の分団長などにも就任し、牛深市では著名人であつたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。而して、右投票には明瞭に「ウラタイチロ」と記載され、その字形、その音感ともに宇良田候補のそれと類似性がないから、右投票は候補者でない者の氏名を記載したものとして、無効投票と認められる。

(3)、9、10は、その記載を仔細に点検しても、文字の記載が不明瞭であるから、いずれも候補者の何人を記載したか不明のものとして、無効投票と認めざるを得ない。原告らは、10の投票については、「ウラ」と判読できると主張するが、未だその記載自体に照して「ウラ」であることの確認が困難であつて、採用できない。

(4)、11、12は、いずれも宇良田候補の有効投票と認める。即ち右各投票はいずれも左文字であつて、前者は「ワニク」又は「ウニタ」と記載され、その字型全体が「ウラタ」と極めて類似している点よりして、文字について習熟しないため、左文字となり、且つ「ウラタ」と書く意思でその記載のとおり誤記したと認めるのが相当であり、後者は稚拙な記載ではあるが、その運筆よりして「ウラタ」と判読することができる。被告補助参加人は右投票は型紙を使用して記載したものと主張するが、未だこれを確認することが困難であり、右主張は採用できない。従つて、右各投票はいずれも宇良田候補を指向することが明らかな投票といえるので、すべて同候補の有効投票と認められる。

(5)、13は、宇良田候補の有効投票と認める。即ち、郵便官署作成部分の成立が争いのないことにより真正に成立したと認められる甲第一一号証の一ないし五、成立に争いのない甲第一二号証の一、二、証人矢田秀雄、尾崎正弘、宇良田彰人の各証言によると、宇良田候補の祖先はその氏を「浦田」と称していたこともあり、本件選挙当時宇良田候補自身も、その氏について他人が間違えて「浦田」姓を使用することがあつても、殊更これをとがめだてることもしなかつたし、牛深市には「浦田」姓を称する者が多数実在し、一般に「うらた」というと「浦田」と記載するのが、むしろ普通であつたことが認められると共に、宇良田候補は予て牛深町長に立候補するなど、政界出馬を意図しながら、その機会を得ず、日頃無聊をかこつていたところから、自ら知友に対して「無聊をかこつ身」を現わす趣旨で「徒然なか」を口にし、知友などより「徒然氏」の愛称をつけられたのを諒として、これを自称していたことも認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。而して、右投票には「浦田トセンシ」と明瞭に記載されていて、これと同名の実在人が他にあることの証左もないので、右投票は宇良田候補を指向することの明らかな記載があるものとして、同候補の有効投票と認めるのが相当である。

(6)、14は、その記名の上下に( )の記載があるから、右は有意の他事記載と目するの外はなく、無効投票たるを免かれない。原告らは、それは氏名を明らかにするためのしめくくりの趣旨に過ぎないと主張するが、たとえば氏名と職業とを併記し、その職業に括弧を付する如き場合はともかく右投票では単に氏名のみを記載していて、他との区別を必要とすべき記載がないのであるから、右主張の趣旨で括弧を記載したと認めるのは困難であり、右主張は採用できない。

(三)、つぎに、原告らにおいて、被告の裁決した高橋候補の有効投票のうち無効投票であると主張する各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)について、以下順次に判断する。

(1)、15は、高橋候補の有効投票と認める。即ち、その文字の配置、態様を仔細にみると、その二字目の「本〈手書き文字〉」の字は、一字目の高の字に対して下方の左寄りに記載されていることが看取でき、一字目の「高」の字との配合の点から、右は「高橋」と記載せんとして、「橋」の字の「木〈手書き文字〉」偏を不用意に「本〈手書き文字〉」と誤記し、つくりの「喬」を書くことができなかつたか、又は遺脱したものと認めるのが相当である。従つて右投票は高橋候補を指向していることが明らかな記載があるものと認め、同候補の有効投票と認める。

(2)、16は、稚拙な記載ではあるが、その運筆、字型より「タカハ」と判読できるから、高橋候補に投票せんとして「シ」の字が書けなかつたか、又は遺脱したものと認めるのが相当であり、同候補の有効投票と解する。

(3)、17は、その字の配置、態様、字型等より、「カ」の字の左肩の「」の記載は、「カ」と書きかけて不用意に左に片寄り過ぎたので、これを抹消したものであることが容易に窺えるから、右は単なる書損であり、到底有意の他事記載とはいえないので、その氏名の記載により明らかに高橋候補の有効投票と認められる。

(4)、18は、前同様の観点からみて、その上部左側の「」の記載が、「高」と書きかけて抹消した単なる書損であることが容易に窺えるから、高橋候補の有効投票であることは明らかである。

(5)、19は、高橋候補の有効投票と認める。即ち、その一字目は「タ」、三字目は「シ」の字であることは明瞭であり、その二字目については、その運筆と字形よりみると、手がふるえてよく書けないため、「カ」と「ハ」とを書こうとして、重ねて書いたようにも解されるし、又「カ」の一字を書こうとしたようにも解され、その結果前者の場合では「タカハシ」、後者の場合では「タカシ」と記載したものと解される。さらに、その最後の字については、これを仔細に点検するのに、手がふるえたため、字形がくずれている(その上部の部分は字形をなしていないが、その全体は連続した一筆で記載されている)けれども、全体として「シ」の一字を記載したものであることが看取される。従つて、右投票の記載は高橋候補の氏名「タカハシシゲヒロ」と記載せんとして、「タカハシシ」又は「タカシシ」とまで記載したものと認められるから、右投票は同候補を指向することが明らかな記載があるものとして、有効投票と認めるのが相当である。

(6)、20は、逆字であつて、稚拙な記載であるが、その字形、運筆よりして、「タカハシ」と判読できるから、高橋候補の有効投票と認める。

(7)、21は、高橋候補の有効投票と認める。即ち、その文字の配置、字形、大きさ、態様よりして、「ハシ」と「ミヤザキ」とは一体として書かれたものでないこと及び初めに「ハシ」と記載され、次に「ミヤザキ」と記載されたものであることが明瞭に看取され、従つて最初に記載された「ハシ」は、「タカハシ」と記載せんとして不用意に「タカ」を遺脱し、「ハシ」と記載したため、それでは氏名の記載が不充分なので、これを補充するため、高橋候補の居住地の部落名である「宮崎」を記載したものと認めるのが相当である。因みに、高橋候補の居住地の部落名が「宮崎」であつて、宇良田候補の居住地の地名(岡東又は古久玉)と明確に区分されるものであることは証人高橋重博、宇良田彰人の各証言に徴し明らかであるから、右「ミヤザキ」の記載は被選挙人の特定に有意義であつて、これにより右投票は高橋候補を指向することの明らかな記載がなされているものと認められ、同候補の有効投票と解される。

(8)、22は、その字形、運筆よりして、優に「タハシ」と判読でき、これと同名の者が他に実在することの証左もないから、右記載は「タカハシ」の「カ」の字を遺脱したものとして、高橋候補を指向することが明らかな記載と認め得るので、同候補の有効投票と解する。

(9)、23、25は、いずれも高橋候補の居住部落名の記載により同候補を指向することの明らかな記載があるものとして、有効投票と解する。即ち、証人池田季人、高橋重博の各証言によると、本件選挙当時牛深市に宮崎真一なる実在人がいたが(右事実は原告らと被告補助参加人との間では争いがない)、同人は酒店を営む者であつて、高橋候補の選挙運動者でもなく、もとより著名人といえない者であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。却つて、本件選挙では、高橋候補の居住部落名を使用した投票が他に数票存在することは第一回検証の結果(附属写真参照)に徴しても明らかであるから、高橋候補を表示するのに、その居住部落名の使用せられることの少くないことが窺えるので、右投票は右部落名を記載したものと認めるのが相当であり、同候補の有効投票と解される。

(10)、24は、その字形、運筆よりして、一字目が平仮名の「た」が斜に書かれたもの、三字目が「は」と書かれたものとみることができるので、「たかはし」と判読されるから、高橋候補の有効投票と認める。

(11)、26は、その字形、運筆よりして、「ハタハジ」と判読され、「タカハシ」とその音感が類似し、その下の二字の字形は近似し、字数も同数であり、「ハタハジ」なる人物が他に実在することの証左もないから、「タカハシ」と記載するのを誤記したものと認めるのが相当であつて、高橋候補の有効投票と解する。

(12)、27は、位置、筆蹟及び字画などよりみて、その記名の上部の「」の記載が、「高」の字を書損じて抹消したものと認められるので、これをもつて有意の他事記載とはいえず、高橋候補の有効投票と認める。

(13)、28は、その最後の字が、明らかに「に」ではなくて、片仮名の「ロ」の字の記載とみられ、その上部の「たカはし」の四字も平仮名と片仮名とを混用しており、文字の配置、稚拙な筆蹟などからみて、右の「ロ」の字は高橋候補の名前である「シゲヒロ」の「ロ」の字だけを最後の字として附記したものと認められ、未だ右「ロ」の字が有意の他事記載とは認め得ず、高橋候補の有効投票と認める。

(14)、29は、位置、筆蹟及び字画などよりみて、その記名の右肩の「」の記載が、当初片仮名の「タ」と記載したのを、右に片寄り過ぎたので抹消し、改めて平仮名で「たかはし」と書き直したものと認められるから、前記右肩の記載は有意の他事記載といえず、高橋候補の有効投票と認める。

(15)、30は、位置、筆蹟及び字画などよりみて、当初不用意に「タか」と、片仮名と平仮名とで書いたため、これを抹消したが、その抹消に当り、「タカ〈手書き文字〉」の二字を続けて抹消したので、「か」の字の肩の「ヽ」の部分のみが残存し、そこで右残存部分のみ別個に抹消したため、「メ」の記載が生じたものと認められ、従つて右「」の記載は有意の他事記載といえず、更にその右側に書き直しされた「タカハシ」の記載があるから、高橋候補の有効投票と認められる。

(16)、31は、運筆、字形、位置などよりみて、その最後の字が、高橋候補の名「重博」の「重」の字のくずし字であると認められるから、これを有意の他事記載とみる余地はなく、同候補の有効投票と認める。

(17)、32は、位置、字画、運筆などよりみて、手が相当強くふるえていることが明らかに認められ、その結果右側の「」の記載が不用意につけられたものと推定できるから、これが有意の他事記載とはいえず、明らかに高橋候補の有効投票と認められる。

(四)、原告ら補助参加人は、本件選挙における宇良田候補の得票のうち五〇票が、高橋候補の得票数の中に不正加算されているから、右五〇票を宇良田候補の得票数に復元加算すべき旨主張するが、前記二の項の後段の部分で説述したとおり、右五〇票の不正加算の主張事実を肯認することができないので、右主張は明らかに失当として排斥するの外はない。

(五)、よつて進んで、被告補助参加人において、被告の裁決した無効投票のうち高橋候補の有効投票であると主張する各投票(右投票はすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)について、以下順次に判断する。

(1)、33、34は、いずれも候補者の何人を記載したか不明の投票として、無効投票と認める。即ち、前者は「タカヒラ」、後者は「タカユキ」と明瞭に記載されていて、いずれも高橋候補の氏名とその音感に類似性がないから、右各投票が同候補を指向していることが明らかであるとはいえないので、無効投票と解する。

(2)、35、36は、いずれも前同様の理由で無効投票と認める。即ち、証人高橋重博の証言に徴すると、高橋候補はつとに高橋家の養子となり、長年郷里を離れて生活していた者であつて、高橋家は「大和屋」の家号を称し、その実家では実姉が浜屋の家号で旅館業を営み、右旅館で「」なる標章を使用していたが、右旅館業も本件選挙の数年前には廃業されていたことが認められ、高橋候補が右家号や標章と関連性を有していたことは窺い得ないではないが、35の投票は「山木」と記載されており、この記載が右標章の「」を表示するものと認めることは困難であるから、到底右記載をもつて高橋候補を指向していることが明らかであるとは認め得ない。また、36の投票は「大八」と記載されているが、右記載をもつて右家号の「大和」を表示したと認めることも困難であり、まして右記載が高橋候補を指向していることが明らかであるとは認め難い。従つて、右各投票は候補者の何人に対してなされたか不明であつて、無効投票と認めるの外はない。

(3)、37は、「タ」と判読されるが、未だ右記載によつては候補者の何人を記載したか不明と解さざるを得ないので、無効投票と認める。

(4)、38は、その記名の左側に「」の記載があるが、その位置、形状及び右投票が全部インキで記載されていることよりして、右記載はインキのつき具合をみるためか、不用意につけられたものと認めるのが相当であり、これを有意の他事記載とするのは相当でないから、高橋候補の有効投票と解する。

(5)、39は、位置、運筆、筆勢などよりして、その最後の字が「へ」と記載されたものと認められるので、右記載は有意の他事記載と解すべきであるから、無効投票というの外はない。

(6)、40、42、43、44は、いずれも候補者の何人を記載したか不明の投票として、無効投票と認める。右各投票は、いずれも字形、音感ともに候補者の氏名と類似性を認め得ないから、無効投票たるを免れない。

(7)、41は、位置、筆勢、字画、色調などよりして、その最後の「―」の記載が、未だ無意識、不用意の間に書かれたものと断定することが困難であるから、右記載は有意の他事記載として、無効投票と認めるの外はない。

(六)、つぎに、被告補助参加人において、被告の裁決した宇良田候補の有効投票のうち、無効投票であると主張する各投票(右投票もすべて別紙目録記載の番号をもつて示す)について、以下順次に判断する。

(1)、45は、「ウラタシゲト」と記載されているが、その「シゲ」以外の部分は宇良田候補の氏名に合致し、同候補の名の「彰」の字はその読み方が容易でなく、誤読される虞れも多分にあつて、「彰」の字を「シゲ」と誤読することもあり得ることである。しかも、知名人の中に「ウラタシゲト」なる人物の実在する証左もないので、右記載は宇良田候補を指向していることが明らかな記載と認めるのか相当であるから、同候補の有効投票と認める。

(2)、46は、明らかに「林田」ではなくて、「村田」と記載されていて、その音感は宇良田候補の氏の音感と近似しているので、右投票は同候補を指向していることが明らかであると解されるので、同候補の有効投票と認める。

(3)、47、48は、いずれも宇良田候補の有効投票と認める。即ち、右各投票には「浦田」と記載されていて、右記載は宇良田候補の氏を指向するものと解すべきは、すでに認定したとおりであり、本件選挙当時牛深市に右各投票記載の氏名と同一氏名を称する者の実在した証左もないから、右各投票は宇良田候補の有効投票と認めるのが相当である。

(4)、49は、位置、形状、筆勢、色調などよりして、その左上肩の棒線が不用意に過つて書かれたものとみられるので、それを有意の他事記載と解し得ず、宇良田候補の有効投票と認める。

(5)、50は、形状、筆勢、大きさなどよりして、その下部の「」の記載が、句切りをつける習慣により不用意に記載されたものとみられるので、これを有意の他事記載と目し得ず、宇良田候補の有効投票と認める。

(6)、51は、字形、運筆などよりして、その右側上部の「」の記載が、「宇」を書きかけて抹消した記載とみられるので、前同様宇良田候補の有効投票と認める。

(7)、52、55、59、60、69は、いずれも位置、形状、筆勢、大きさ、色調などよりして、右各投票の記載のうち左記の部分につき、すべて不用意のうちに過つて記載したものと認められるので、これを有意の他事記載とすることはできず、すべて宇良田候補の有効投票と認められる。即ち、52はその下部の「」、55はその下部の「」、59はその二字の中間の「―」、60はその左側の「」、69はその上部の「」の各記載部分につき、不用意の記載と認める。

(8)、53は、位置、字形、筆勢などよりして、当初平仮名の「う」と書き、その下に平仮名の「ら」を書かんとして、片仮名の「ラ」を間違えて書き出したのに気付き、「ラ」の上部の「-」を記載したのみで中止し、ついで「う」の字を抹消して、その左側に片仮名で「ウラタ」と書き直したが、「ラ」の上部の「-」について抹消を失念したものと認められるから、右「-」の記載部分は有意の他事記載といえず、宇良田候補の有効投票と認める。

(9)、54は、位置、字形、筆勢などよりして、当初「浦田」と記載したが、「浦」の字に自信がもてなかつたので、これに片仮名で訓をつけようとし、「浦」の字の右側に「ウ」と記載したものと認められるので、「ウ」の字は有意の他事記載といえず、宇良田候補の有効投票と認める。

(10)、56は、その投票用紙の破損原因が不明であるから、選挙人が破つたものとは即断できず、却つて開票整理の際、生じたものと推定されるし、又右破損の部位、程度では、未だこれを無効とするに足らないので、宇良田候補の有効投票と認められる。

(11)、57は、位置、形状、運筆などよりして、その上部の「」の記載が、「ウ」の字を記載しようとして、上部の点を書いただけで中止し、改めて下部に書き改めたが、上部の「」の記載は書損であるのを抹消することを失念したものと認められるので、有意の他事記載ではなく、宇良田候補の有効投票と認められる。

(12)、58、61、63、64は、いずれも宇良田候補の有効投票と認める。即ち、58、61はその字形が全体として「ウラタ」の記載に近似し(58は「ウラタ」を間違えて逆順に書いたものとも窺える)、文字に習熟しない者の字であるが、その運筆よりすれば、「ウラタ」と記載せんとした筆蹟を有するもので、宇良田候補を指向するものであることが認められる。

さらに、63は「うらた」と判読できる文字の記載もあり、余分の字は抹消できなかつたか、遺脱したものと認められる。

つぎに、64はその字形、運筆から「ラタ」と判読でき、「ウ」を書けなかつたか、遺脱したものと認められる。従つて、右各投票はすべて宇良田候補の有効投票と認めるのが相当である。

(13)、62は、逆字であつて、位置、字形、運筆よりして、その逆字の上部の「」の記載は「ウ」の字の書損であつて、これが抹消を失念したと認められるから、右投票は宇良田候補の有効投票と認められる。

(14)、65は、その一字目が「ウ」の字であることは明瞭であるが、二字目は明らかでないので、右投票は候補者の何人を記載したか不明であると解するの外はなく、無効投票と認められる。原告らは、右二字目は「人」の字であると主張するが、たとえ「人」の字であるとしても、これにより宇良田候補を指向する記載があるといえるものではない。

(15)、66は、宇良田候補を指向する明らかな記載があるから、同候補の有効投票と認められる。即ち、同候補は市長選挙に立候補したのは本件選挙が初めてであり、高橋候補は初めてではないことが、証人宇良田彰人、高橋重博の各証言により明らかであるからである。

(16)、67は、宇良田候補の有効投票と認める。即ち、右投票には「うらたひこ一」と記載されていることは明らかであつて、本件選挙当時牛深市にこれと同じ氏名を称する著名人が実在したとの証左はないから、立候補制度をとる選挙法の解釈として、右記載はその氏において一致する宇良田候補を指向することが明らかな記載と解するのが相当であつて、同候補の有効投票と認められる。被告補助参加人は、その「ひこ一」の名は熊本県の民話、民謡に出る人物である「彦一」を意味するもので、その名には侮蔑の意味がある旨主張するが、「ひこいち」なる名は世上一般に用いらるるところであつて、「ひこ一」の「ひこ」の漢字が「彦」に限定されるものでもないから、「ひこ一」を民話に出る人物の「彦一」を表示すると一概に解し得ないので、民話上の「彦一」の名が侮蔑の意味を有するか否かについて検討するまでもなく、右主張は理由ないものといわねばならない。

(17)、68は、位置、字形、筆勢などよりして、その最後の「」の記載は、「人」又は「ト」と記載したもので、「ウラタ」の字が稚拙で自信がないため、その最後に宇良田候補の名の「彰人」又は「アキト」の「人」又は「ト」を付記したものと認められ、未だこれを有意の他事記載とは認め難く、右投票は宇良田候補の有効投票と認められる。

(七)、以上説示したところにより宇良田、高橋候補の各有効投票を計算すると、宇良田候補の得票数は、被告の裁決に示された同候補の八、二六四票に、前記(二)の(4)及び(5)の合計三票を加算する反面、前記(六)の(14)の一票を減じた計八、二六六票となるのに対し、高橋候補の得票数は、被告の裁決に示された同候補の八、二七〇票に、前記(五)の(4)の一票を加算した計八、二七一票となり、高橋候補の有効得票数が宇良田候補のそれより五票だけ多くなることは計数上明らかであるから、高橋候補が本件選挙の当選者となるべきである。従つて、被告のなした本件裁決はその結論において正当である。

よつて、原告らの本訴請求はすべて失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九四条後段を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 岩永金次郎 岩崎光次 小川宜夫)

(別紙目録省略)

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